なぜ遺言書が必要なのでしょうか?

ご自身の財産を、自由に処分できるという考え方は、誰しもが望むことでしょう。実際に相続が必要になった時、意思通りに、遺された人(相続人等)に引き継いでいってもらいたいと考えている人は多いようです。

しかしその時、いくら事前に相続人等に対して分割や配分の方法を告げていたり、メモ等を残していたとしても、「有効な遺言書」がなければ、法的には何の効力もありません。その結果、相続人の方が遺産分割協議を行う必要に迫られ、被相続人ご自身の思いとは全く違う結果となる場合が往々にしてあります。

事例
自分(例えば長女)は親の介護をしたが、兄弟(兄など)は家を建てる資金を援助してもらっていた。
→相続時、法的には兄妹で等分となるため、負担と利益享受のバランスで紛糾し協議がまとまらず

このように、寄与分や特別受益などをめぐって遺産分割協議がなかなかまとまらないということは、よくあります。いったん相続が「争族」となると、相手が身近な人であっても、感情的になって、協議が泥沼化してしまうケースも多くみられます。もし遺言書があったら、ここまではこじれなかっただろう、と残念に思われるケースが実際によくあるのです。

遺された相続人達が争うことなくスムーズに財産を引継ぐことができるよう、争いを未然に防いだり、争う余地のない、法的に有効な遺言書を作っておくことは大変重要です。後々の相続人同士のトラブルを未然に防ぐことができますので、ぜひご検討ください。

 

こんな場合に遺言書があれば…

特に次の場合に該当する方は、遺言書を作っておくことをおすすめします。

1.法定相続分と異なった配分をしたい場合

  • 遺言書が無ければ、相続人全員で法定相続分に従い遺産分割をすすめることになります。
  • 例えば、長年音信不通の息子よりは、自分の介護をしてくれた妻や娘に法定相続分より多めに財産を遺したい場合は、事前に遺言書で配分を指定しておく必要があります(遺言が優先されます)。

2.夫婦に子どもがいない場合

  • 夫婦に子どもがいないと、残された配偶者は、亡くなった配偶者(被相続人)の兄弟姉妹と遺産分割協議を行う必要があります。
  • 相続人が兄弟姉妹や甥姪になると、疎遠であったり居住地が遠方など、話し合いで遺産分割をすることが難しくなります。
  • 遺言書があれば、相続人間の分割協議を経ることなく、指定された相続人(配偶者)が不動産や預金を引き継ぐことが可能となります。

3.再婚されている場合

  • 異父兄弟、異母兄弟の場合、感情面なども絡み、遺産分割の話し合いが難しくなります。
  • 配偶者は、離婚すると法定相続人としての権利を失います。
  • 先妻(先夫)の間の子と後婚の間の子が絶え間なく交流を持つことはあまりなく、面識のない人と遺産分割協議を行わなければならない場合も想定されます。
  • スムーズな相続手続きと残された子どものためにも、遺言書が必要です。

4.法定相続人以外の人に財産を遺したい場合

  • 遺言書が無ければ、法定相続人以外の方に財産を残すことはできません。
  • また、長年連添っている連れ合いでも、婚姻届を出していない内縁関係である場合、特別縁故者として認められない限り、内縁の夫や妻は財産を引き継ぐことはできません。
  • 法定相続人以外に財産を遺したい人がいる場合は、遺言書を作成する必要があります。

5.相続人間が不仲の場合

  • 遺言書がない場合、相続人間で遺産分割協議を行い、全員が分割案に賛成しないと、実際に財産を引き継ぐことはできません。
  • しかし、遺言書があれば、相続人間の分割協議を経ることなく、指定された相続人が不動産や預金を引き継ぐことが可能となります。
  • 相続税の申告もスムーズに行いやすくなります。
  • さらに遺言書に第三者の遺言執行者を指定しておけば、遺言の内容に反対している相続人がいても、遺言通りの内容を執行することができることから、手続きが円滑に進みます。

6.不動産を所有している場合

  • 不動産を所有している場合、評価が難しい上に分割しにくいので、相続人間で遺産分割協議をしようとしてもうまくいかず、相続争いに発展してしまうことがあります。
  • 財産に不動産がある場合は、引き継ぎ先や分割方法を遺言書で指定しておくことにより相続人達の負担は軽くなります。

7.個人事業主で事業を承継させたい場合

  • 個人事業主の場合、事業用財産は個人のものとなります。
  • 相続の際は、事業用財産も相続の対象となり、法定相続分に従って細分化され、後継者が事業承継できなくなるおそれがあります。

公正証書遺言と自筆証書遺言とは…

遺言書には、大きく分けて「公正証書遺言」「自筆証書遺言」があります。双方にメリット・デメリットはありますが、確実に遺言内容を実行したい場合は、「公正証書遺言」の方がおすすめです。

種類作成方法メリットデメリット
自筆証書遺言遺言者が全文(内容・署名・日付)を自書のうえ押印※1
  • 費用がかからない
  • いつでも手軽に作成できる
  • 遺言の存在や内容を秘密にできる
  • 形式や内容の不備により無効になるおそれがある
  • 紛失の可能性
  • 偽造、変造の可能性
  • 遺言書が発見されなかったり、隠匿される可能性
  • 家庭裁判所の検認が必要なので、遺言の執行までに手間と時間がかかる
公正証書遺言遺言者が公証人に遺言内容を口述し、公証人が作成。
  • 公証人が作成するので、遺言の有効性が確実
  • 公証人役場で原本が保管されるため、偽造、変造、隠匿のおそれがない
  • 家庭裁判所の検認が不要なので相続人などがすぐに開封して遺言を執行できる
  • 費用がかかる
  • 2名以上の証人が必要

※1 ただし、今般改正された相続法では、自筆証書遺言を「本文(日付及び氏名含む)」と「相続財産の目録」とに分け、「相続財産の目録」については、自書によらないことを許容しています。
※ 2020年7月10日から法務局における自筆証書遺言書の保管が始まります。法務局に保管されている自筆証書遺言書については、家庭裁判所における検認の手続は不要となります。